*あおぞらこえて*
声が……煩い。
時々酷い頭痛に襲われることがある。
そういう時は、大概誰かの強い感情が理不尽に俺の頭に流れてくるときだ。
どうかこの願いを叶えてください、 お願いします、神様…って。
「 あー…空が青いな」
MZDは人気の少ない原っぱのど真ん中に寝そべって、空を見上げていた。
まぶしいほどきれいな空。一面の青。光が織り成す自然の色。
そんな空を見上げながら、MZDはただただボーっとしていた。
今は何も考えたくなかった。
時折聞こえてくる悲痛な叫び。
俺には何もできねぇんだよと心の中で呟いたって、そんなこと相手は聞いちゃくれない。
「何も出来ねーんだって…俺にはさ…」
空に手をかざし、口に出してそう呟いても、声は止まない。
声は一つだけじゃない。あちこちから幾つもの声が響く。けど、そのどれもが同じ言葉を紡いでる。
どうか助けてください、お願いします、神様…って。
目は瞑りたくなかった。目を瞑れば暗闇の中で声が響くだけだから。
そんなことには耐えられなかった。
…いや、いつから耐えられなくなったんだろう。
以前は…昔はそれほど耐えられなかったわけではなかった気がするのに。
「かーみっ。何してるのー?」
遠のいていた意識を引き戻すかのように、頭上から響いてきた声。
気が付いたら目の前に、自分の顔を覗き込んでいる見慣れた人物の姿があった。
そいつはしゃがみこんで、両手で頬杖ついて、何時も変わらないその愛くるしい表情を向け、頭上に広がる空と同じ色の瞳で俺のことを見ていた。
「…ジュディ?」
俺は確認するかのように、そいつの名前を呼んだ。
「うん。久しぶりだネ、神」
ああ、こいつの声は心地いいな。
久しぶりに会った彼女の、返事をするその声を聞いて、一番最初にそう思った。
「…お前、何でこんなところにいんの?」
「お散歩ダヨ♪」
「散歩か…」
「うん。だって外があんまりにも気持ちよかったカラ、じっとしてられなくて」
ジュディはそう答え、えへへと笑う。
その屈託のない純粋な姿は相変わらずのようで、
只の問い掛けと答え。それだけの他愛のない会話に対してまでも、楽しそうに言葉を紡ぎ出す彼女がやけにまぶしかった。
それから、最近どうしてたとか、何があったかだとか、よくある世間話程度の会話を二言三言交わした気がする。
ただ、不思議なことにそれだけで、さっきまで塞ぎがちだった心と、重かった体が少し軽くなっていった気がした。
会話の内容なんてホント大したことがないものなのに。何故だろう。
「…神、今日はなんだか疲れてる?」
さっきからボーっとした返答ばっかりだったせいだろうか、少し心配そうな様子でジュディが言った。
「ああ、いや… …あーでも…そーなのかもしれないなぁ」
頭痛のせいもあって色々考えることを放棄したかった。そのせいか非常に曖昧な言葉しか出てこなかった。
そんな俺を見て、彼女は優しく微笑む。
「神って、いっつもなんかいっぱい無理すしてばかりだもん。もーすこし楽にした方がいいヨ」
そしてジュディの白くてきれいな手が俺の額の上に伸びた。少しひんやりしたその手の感触がまた気持ちよかった。
…それ以上は言葉も出てこなくなって、俺はそのまま目を閉じた。
身体を吹き抜ける風や、やわらかく降り注ぐ太陽の光や、そよぐ草の音が直接体に入り込んでくる。
そういえば、いつの間にか頭の中で響いてた声が小さくなっていた。頭痛もなんとなしに和らいだ気がする。
目を閉じて広がる暗闇。けれどそこに広がるのは優しい静寂。
さっきまで、目を閉じるのすら嫌だったと思っていたはずなのに。
今は、もう暫くこのままでいたいと思ってる。
何故だろう。
さっきと違うことといえば、ただこいつが傍にいるだけなのに。
***
特にあとがきで言及するほどのこともない超SS。なんとなくでなんとなくなほのぼのーな感じの神ジュ。
最初に書きたかったことは実はもっと違ったんだけど、なんとなくこのぼーっとした感じ(笑)が気に入ったのでこのままに。
あ、タイトルは 「青空越えて」ではなく、 「青空(と)声(と)手」です(笑)
(20040911)
***
何気に 続きます →
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photo by 空色地図 -sorairo
no chizu- +++thanks!!