暁降街
あかときくだちのまち
始まりは まだ夜の明けない、暁の降りた街から−…
* * * 6月 * * *
夜の闇と朝の光の狭間のこの街で
静かに想いは動き出す
繋げぬ手の間にあるのは冷たい暗闇
燈の光を求めて僕等は彷徨い歩く
* * * 7月 * * *
明かりのない静かなこの街
夜が明ける前の闇の中を一人手探りで歩く
ただ掌に残る温もりだけを頼りに
ここにいない君の行方を追い続ける
* * * 8月 * * *
その紺碧の夜空は僕らを瞬く間に覆い尽くす
君も僕も世界も全てが一時同じ色に染まる
今日も一人この街を歩いて君の姿を探す
ただ変わらず聞こえるのは静寂に響く己の靴音のみ
* * * 10月 * * *
真夏の暑さに下を向き ふと気付いて上を見上げれば秋の空
たなびく雲が遥か上空にいくつもの線を描く
誰もいない夜明け前 君はどこにいるの?と小さく呟いた
けれど声は 秋の風に吹かれて消えていく
* * * 11月 * * *
冷たい北風が肌を刺す
君の温もりを求めて 長い間街を彷徨った
けれど未だ君の影すら捕まえることができなくて
途方に暮れたまま また次の季節を迎える
* * * 12月 * * *
雪 白い雪
街に降りそそぐその合間に 君の影を見つけた
ほんの一瞬 たくさんの人影の中
たった一度だけ捕らえた君の姿
触れたくて 触れたくて 手を伸ばす
* * * 1月 * * *
やっと触れられた君の手
白くて軟らかくて そして暖かかった
ようやく出会えたことが ただただ嬉しくて
嬉しいはずなのに ずっと涙が止まらなかった
* * * 2月 * * *
もう二度と離しはしない もう二度と見失いはしない
カミサマでも他の誰でもなく 君に誓おう
そして ずっと伝えたかった言葉を 今…
***
「すきだよ」 たった一言
伝えたかった言葉はそれだけ
それを伝えるために
ずっと君を探し続けてきた
そして…愛しい君を
そっとこの腕で抱きしめるために
***
* * * 3月 * * *
いつしかまた季節は変わっていた
冷たい白い雪の季節から
暖かい色鮮やかな花の季節へと
君は 舞い落ちる花びらをかき集めて
とても とても楽しそうに笑った
その笑顔がまた 僕の心を満たす
* * * 4月 * * *
風が木の葉の間を吹きぬける音
天から降る雨が大地を叩く音
人々が街頭を歩く音
この世界にある命が織り成す沢山の音たち
溢れかえるそれらのなか
君の歌声はとびきり美しく僕の耳に届いてくる
* * * 6月 * * *
季節は巡り、また始まりの季節がやってきた
おだやかで やさしい日差しの中
色鮮やかに輝く 一厘の花
君と出会ったあの時にも 咲いていた
* * * * * *
―そう 音のある街に わたしたちはいました