*お砂場デート*
「お前ほんっとーに面白いよなぁ」
黒神は目の前の光景を眺めながらしみじみといった。
「…え?何が?」
後ろから聞こえた声に、ジュディは聞き返す。
「だってせっかくの休みだってのによー、ガキと砂場で遊んでて面白いか?」
今日はジュディにとって久しぶりのオフ。
普通こういう時は街中に繰り出してショッピングとか、
友達とどっかでかけるとか、もしくはゆっくり体を休めるべく寝るとか、 彼氏とデートとか、
そういうもんじゃないのか?と黒神は思った。
まぁ…これもデートっていやぁデートなのかもしれんが…
と、目の前の光景をあらためて見やるが、そこにあるのはその言葉と不釣合いな情景。
「えー?こーゆーのも結構オモシロイよ?」
そう言ったジュディは、人気の少ない昼間の公園の砂場で砂の山を築いていた。
だいぶ大きくなった砂山に、白砂をかけて仕上げを施す。
その砂の山の反対側には、一生懸命穴を掘ってトンネルを開通させようと奮闘している子供が一人。
服を泥だらけにして、砂をその小さな手で掻き分けて、
一生懸命作った山を崩さぬように注意を払いながら作業に夢中になっているその様子はとても微笑ましい。
「ホントに面白いのかねぇ…」
黒神はわからねぇな…と思いつつ暫くその様子をじっと見ていたが、
退屈になったのか、突然砂場の囲いに足を踏み入れ、
砂の山に頭をうずめんばかりの勢いで穴を掘るその子供の尻を軽く引っぱたいてやった。
それに驚いた子供は、何をするんだといわんばかりに頭を上げ、黒神のほうを見やる。
すると、にやりと笑う黒神に腹が立ったのか、突然砂と泥まみれのその手で黒神のことを殴りだした。
「うわっ、コラテメー!服が汚れるじゃねーかっ!!」
黒神が怒鳴るのもお構いなしに、その子は感情の赴くままポカポカ殴り続ける。
しかしいかんせん大人と子供。体格の差も明らかで、黒神がひょいとその子の服を掴んで持ち上げてしまえばもう攻撃は届かない。
叩こうとする小さな手は空を切り、逆にそれに自分が振り回されるも相手はびくともしない。
それがわかると、その子は攻撃することをやめて、今度は早く放せと手足をじたばたさせた。
「今のはクロが悪いんだヨー、だから放してあげなって」
黒神が決して悪気があってその子を苛めてるわけじゃないということをわかっているジュディは、
目の前のその微笑ましい光景に笑顔を浮かべて言った。
「ったくなぁ…これがこの世界を統べる神様ってどうよ?」
黒神はその子を下ろそうとする様子を全く見せず、宙にぶら下がった状態のその小さな子供を見て言った。
「可愛くていいじゃない♪」
「そーゆー問題か?」
「だってー、ちびちゃんは確かに神だケド、今はカゲとか他の能力とか何も使えないただの子供だって前に言ったのクロだよ?
それに…クロだってちっちゃくなることあるんじゃナイの?」
ちびちゃん…そう呼ばれたこの子供がこの世界を統べる神様…
などと言ったところで普通誰も信じる人はいないだろう。しかし誰がなんと言おうと、正真正銘彼がこの世界の神なのである。
尤も、通常はこんな子供の姿ではなく青年の姿をしているのだが。
なんでも様々な原因によって彼自身に負荷がかかってしまうと、本人の意思とは無関係に子供の状態になってしまうというのである。
また、同時に精神も幼年化してしまい、神としての能力も使えなくなって、実質そこらの3歳くらいの子供となんら変わらぬ状態になるという。
そのうえこの状態のときの記憶は本人には全く無いそうだ。
何故そうなるかは謎なのだが、本人に聞いてもこうなっている自覚すらないのだから聞きようがない。
ジュディがはじめてこの状態のMZDに出くわしたのは少し前のこと。
神とよく似てる子だなーとは思ったけれど、まさか本人だとは露にも思わず。
その時たまたまこっちに遊びに来ていた黒神がちゃんと説明してくれなければ、
それがMZD本人だなんてことは今でも信じられなかったであろう。
神…MZDと同一存在である黒神はこの現象を、システムが自動的にとる救済措置だとかなんだとか複雑なことを言っていたが、
ジュディにはそんな小難しいことをとうとうと説明されたところで殆ど理解できなかった。
だからとりあえず、「神は仕事で疲れて疲労がたまりすぎるとこんな風に小さくなってしまう」という風に解釈することにしていた。
そんなわけでジュディは時折小さくなった神とこんな風に遊んだりするのだった。
そしてそういう時は大抵黒神も一緒なのである。
「ざーんねんでした。俺様はこいつみたいに不甲斐なく無いからこんな幼稚なお子様にはなったりしねぇの」
俺様はストレスとは無縁なのよ。と言い、黒神は突然ちびの体を放すと、自分の意思で子供の姿になって見せた。
「ま、こーやって体を自由に変化させるのは朝飯前だけど?」
そして得意気に言って胸を張ってみせた…とたん、小さい黒神の頭に突然泥団子が命中した。
すぐ後ろを見やると、なんだかよくわからないけどばかにされたと、むっとした表情をうかべてちびが立っていた。
ちびは続けてもう一つ泥団子を黒神に向かって投げた。…が、今度はあっさりよけられてしまう。
「お。てめー…やりやがったなー!これでもくらえよっ」
黒神も反撃の泥団子を投げる。そして宙を飛び交う泥の塊。
いつの間にか山とトンネル掘りは放って置かれ、泥団子合戦になっていた。
ジュディはその様子を泥が飛んでこない位置から眺めつつ、
「こー見てると…クロもじゅーぶん幼稚な気がするんだけどナァ…」
と小さく笑いながら黒神に聞こえないように呟いた。
久しぶりのオフ。ショッピングしたり、友達と遊ぶのもいいけど、
たまにはこういうのだって楽しいと思う。
目の前で 戯れる二人の子供(?)の様子を暖かく見守りながら、
ジュディはあと少しで開通しそうな砂山のトンネルの続きを掘り出しはじめた。
***
ちび神と黒神とジュディのお話。
ひねりも何もなくいやもうホントにそれだけ。
(20041012)
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photo by
空色地図 -sorairo
no chizu- +++thanks!!