*June Bridal*

「なんだか変な感じだなぁ…」
「あ…ねぇ…やっぱり…イヤだった?」
ふと隣から聞こえた小さい呟き。彼女は少し不安げに訊ねる。
訊ねられた彼は、申し訳なさそうな表情をする彼女に目をやり、軽くその頭をなでてやった。
「別に嫌ってわけじゃねぇよ。だからそんな顔すんな?」
「嫌じゃない」という彼の言葉を聞いて、「よかった」と彼女の表情はすぐもとの明るさを取り戻した。

うん、決して嫌ではないのだ。
ただ問題があるとすれば、この妙な格好と、胸の奥からこみ上げてくるむず痒さくらいか。
後者はまぁともかく前者はなぁ…

格好がいつもと違っているのは自分だけではなかった。
今自分の隣にいる彼女も、普段と一転してまるで別人のような姿をしている。
整った顔立ちを更に引き立てるように薄く施された化粧。頭部を覆う白いシルクのヴェールに浮かぶピンクのルージュが人の目を引く。
更にその身は、落ち着いた装飾の施された白い清楚なロングドレスに包まれ、肘まである長く白い手袋の中には小さなブーケが納まっている。

そう、それはまさに花嫁と呼ぶに相応しい姿。

暫くぼーっとその姿を眺めていたら、視線に気付いたのか、彼女は「どうかな?」とはにかみながら訊ねてきた。
「…別に、今更言うまでもないことだろ?」
直接感想を口に出して言うのがなんとなく気恥ずかしくて彼は遠まわしに述べた。
「エ…そ、そんなに変カナっ!?」
しかしどうも遠まわしすぎたのか、自分の言葉の本当の意味に彼女は気付かなかったらしい。
「バーカ、なんでそうなるんだ。…似合ってるに決まってるじゃねぇかよ」

…そもそも変なのはお前じゃなくてこっちだっての…と、彼は誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。
普段の自分の格好が正装と言うものは縁遠いということくらい自覚はしている。
というよりむしろこれまでそういう格好をすることをあえて避けてきた筈なのだが…まさか今更こんな格好をすることになるとは思ってもいなかった。

鏡に映った自分のその姿は、自分でも疑いたくなるくらいに別人であった。
でもまだこのタキシードが白じゃなかったのが幸いか。…白だったらさらに破滅的に似合ってなかっただろうから。
彼は深々と溜息を吐く。




あー、やっぱり嫌そう…だなぁ…
彼女は隣に立つ彼の溜息を聞いて不安になっていた。
さっきはああ言っていたけど、半ば無理矢理こんなことに付き合わされたんじゃ嫌じゃないはずないよね…
彼がこういうのをあまり好まないと言うことくらいは知っている。
けれど…偶然掴んだこのチャンスは絶対に逃したくなかったのだ。

白い花嫁衣裳。それは女性なら大抵誰もが抱く一つの憧れ。
それに袖を通すことができる日なんて絶対に来ないと思っていた。
だから今日突然それを着れることができるとなってとても嬉しかった。
しかも隣には心密かに想う人がいてくれるとあって、もはや幸せ以外の何事でもなかった。

彼女は、俯くように手に持っているブーケに顔をうずめる。仄かに香る花々が優しく頬に触れた。
すると突然、軽く頭を叩かれる。
「…あのな、誤解すんなよ?さっきも言ったけど、別に嫌なわけじゃないからな?」
思わず俯いていたからだろうか、隣からそんな声がかけられた。
「デモ…ホントは嫌だったんじゃナイの?…こういうの苦手デショ?」
彼は自分を気遣ってそう言ってくれてるだけなのかもしれない、と彼女は思っていた。
「いや、まぁ…確かに苦手っつーのはマジ否定できねーけどな…」
そりゃ普段なら間違いなくこんな話断固として断っていただろうさ。
ただ、今回に限ってこんな格好をすることを引き受けた理由は…ただ一つ、彼女と一緒なら別に悪くないかと心のどこかで思っていたからで。
「ケド、さっき溜息ついてたよね?」
「あー。だから…それは…」
「ソレは?」
「…」
ちょっとの間のあと、彼の声が耳に入る。ただその声はあまりにも小さすぎて何を言っているのか全く聞き取れない。
「ナニ?キコエナイよー」
「…ぁー…だーかーら!…お前はともかくだな、俺はこーゆー服が似合わねぇんだっての!」
赤くなった顔を半分手で覆い隠しながら、彼はそう言った。

ぷっ。
その言葉を聞いて、彼女は思わず噴出してしまった。
「…んだよ…そんなに似合ってねーかよ…」
彼は恥ずかしそうに拗ねてそっぽを向いてしまった。
「あ、チガウの!ゴメンなさい。似合ってナイなんて…そんなことナイよ?」
「…世辞なら間に合ってる」
「ホントだって!信じてナイの?」
うーん、と彼女はちょっとだけ困った顔をした後、徐に手に持っていたブーケを傍の台に置いて、そのまま彼の方に手を伸ばした。
そして素早く彼の目元からかかっていたサングラスを取り上げる。
「あ!!コラ何しやがる!!!」
突然視界が明るくなって慌てふためく彼。取られたサングラスを取り返そうと手を伸ばすが後一歩の所で空を切る。
「うん、ヤッパリね。コッチの方がカッコイイ。…ついでに髪型もチョット変えて整えたらイイ感じカモ」
「そ、それとこれとは話が別だろっ!」
「別じゃナイよー。だって似合わナイって気にしてるんデショ?」
「それ取られるくらいならもう気にしねぇから…いいから返してくれ…」
「ヤダ。外したままでいてくれるナラ返してあげてもイイヨー?」
彼女は彼のサングラスを手にしたままクスクスと悪戯っぽく笑った。

「……ジュディ」
「なーに、MZD?」
ジュディの耳には再び「はぁ」という溜息が聞こえた。
「あのなぁ、俺が人前でソレ外したことないのお前知ってるだろーが」
「ウン、知ってるヨ。でも、別に関係ナイし?」
人の気も知らないで、関係ないとすっぱり言い切るかコイツは…
「それにネ、この方がやりやすくないカナ?誰かに見られても神だって気付かれないで済むし、気付かれないなら別に恥ずかしくないデショ?」
まぁ…そりゃこんな格好してるのが人に知れるよりは誰だかわからない方がいいといえばいいのだが…だからってなぁ…
「エー、そんなに外すのイヤ?外してる方がカッコイイのにー」
どうしてもサングラスを返すのを渋るジュディ。
特にどうしても返したくない理由があるわけではなかったが、なんとなくこのままでいて欲しいと思った。

で、ついにMZDの三度目の溜息が聞こえる。
「あー、わーかった。わーかーりーまーしーた!外してればいーんだろ…ったくー」
そのセリフを聞いて「わーい♪」 と笑顔になってジュディは喜んだ。
MZDは返してもらったサングラスを渋々胸ポケットにしまう。どうも視界が明るくて広いとすっきりしねぇんだけど…
「んじゃもうついでだからこれも直してくる。ちょっと待ってろ」
MZDはジュディに言われた通り、律儀に髪型を直しに更衣室まで戻っていった。


似合ってない似合ってないってMZDは気にしていたけれど、そんなことないと思うんだけどなぁ。
ただ見慣れてないせいでほんのチョット違和感を感じるだけで。
それに違和感なら…自分も感じないわけではないもの。

ジュディは少し移動して、柱にかかった姿見に映った自分の姿を見つめた。

うん、ドレスには憧れてたけど、自分が着ることになるとはやっぱり思ってなかったもの。
普段のラフで動きやすいズボン姿が定着しているせいか、やっぱりちょっと変な感じがする。

でも、なんだかんだ言ってみんなそんな風に感じたりするものなのかもしれないね。


そうそう、今日はどうしてこんな格好をしているかと言うと、突発的な仕事…みたいなものなのかな。
ウェディングドレスなんて着ているけど、勿論本当の結婚式なんかじゃない。



そんな事の始まりは、今日の昼頃のこと。











「今日は付き合わせて悪かったなぁ」
「んーん。こっちこそ連れて行ってくれてアリガトーだよっ。会場の下見って初めてダカラなんだかワクワクしたヨ」
昼頃、とあるホールを後にしたMZDとジュディの二人。
本当ならこの日、MZDはミミとニャミを連れて次のポップンパーティの会場の下見をしに行く予定だった。
しかし突然ミミたち二人が仕事の都合で来れなくなってしまったので、二人が自分たちの代わりに 別の人を寄越すと突然MZDに言ってきた。
こっちの事などお構い無しに二人は無理矢理話を押し通すものだから、
もしかしたら何かあるのか…?と却って不安になり、代理に一体誰が来るのか冷や冷やしたものだ。
しかし 自分の予想を裏切ってミミニャミの代理としてやってきたのが、彼女…ジュディだったのである。
本当はマリィも一緒に来る筈だったらしいが、彼女も突然入った仕事の都合で来れなくなって結局一人でやってきたのたと後から聞いた。

本当はパーティ会場の下見程度ならMZD一人で行ってもいいように思えるものだが、
一応自分以外のヤツの意見も取り入れた方がよくね?…というMZDの意向から、準備の一環として、
パーティの勝手を熟知している古株名司会コンビの二人と一緒に下見に行くのが以前からのならわしになっていた。
ミミとニャミも、それなら代打には相応しい人を…自分たちと同じくらいパーティのことを知ってる人物がいいだろうとジュディに声をかけたのであった。

「しかし来てくれたのがお前でよかった。おかげで全部滞りなく済んだしなー」
「ヨカッター、少しは役に立てたカナ?」
彼女もパーティの初期からのメンバーであるから、ミミとニャミほどではなくても進行の形とか大体のことは説明するまでもなくわかってくれている。
それに主催者である自分が何をどうしようと思っているかとかということも結構理解してくれているようだし、
出演側としてもどうあればよいかとか、前の会の反省を踏まえた的確な意見を色々言い合えたりするので非常に助かったのだ。
きっとこれで次のパーティもバッチリだろう。とMZDは満足して会場の下見を終えた。

結局会場の変更とかもせずに済んだことから、用事は午前中で終わってしまった。
午後は二人とも空いているということで、二人はなんとなくそのままぶらぶらと街中を歩くことにした。

…その途中、ふとジュディの足が止まった。
彼女の目線はある小さな店のショーウィンドウへ向けられ、さらにその中に飾られているあるものに釘付けになっていた。

そこに飾られていたのは、純白のウェディングドレス。

ライトの光を浴び清楚に輝くドレスの美しさには思わず目を奪われずにいられない…それくらい綺麗なものだった。
大好きな人と一緒にこんなに綺麗なドレスを着て、周囲に祝福されて、新しい道を歩めたなら、きっと何よりも幸せだろう。
そういえば今の時期はジューン・ブライダルという言葉にもあるように結婚式のシーズンだからだろうか、
ショーウィンドウから見えた店内には、さらに他のドレス、そしてそれを見に来ているカップルの姿が見えた。
…いいなぁ、と思わずジュディの口から漏れる。

「やっぱ女ってこーゆーの好きだよなぁ」
ドレスに見とれていたジュディの横でMZDが言った。
その声を聞いてジュディは我に返る。
「あ…うん。私も一生に一度はこういうの着てみたいなぁ…」
「何言ってるんだか。お前もいつか着るんだろ?」
「…ん。でも…どうだろ…」
ジュディはそんなMZDの言葉に対して言葉の端を濁した。

いつか結婚するならこんなドレスを着ることもあるかもしれないけど…
やっぱり結婚するなら…それは一番好きな人と、が理想。
でも、そんな理想はきっと叶わない…から…。
だから、私がこんなドレスを身に纏う日なんて来ないような気がしていた。

「だって、一緒にコレを着て歩いてくれるヒトがいないヨ」
ジュディは心のうちを誤魔化すように笑ってそう言った。
「…そーか?今はともかく、この先はわかんねーだろ…?いつかお前にこれを着せてくれるヤツがちゃんとやってくるって」
MZDがそう言うと、ジュディは小さく「…そーだね」とだけ口にする。
そりゃ…MZDにしてみたら他人事なんだからしょうがない…とわかってはいるけれど、今の言葉はほんのちょっとだけ寂しかった。

もしも冗談ででも、「じゃぁ私がこれを着る時は、貴方が傍にいてくれる?」なんて言ったら、貴方はどう思うだろうか。



「…もう行こっか!早くしないと買い物できなくなっちゃうヨ」
ちょっぴり沈みそうになるのをこらえ、ジュディがMZDの手を引っ張ってその場を去ろうとした…その時だった。
「ねぇちょっと、そこのお二人さん、それに興味があるのかしら?」
突然二人の後ろから誰かの声がした。
「あ、いや…」
「別に…ただ見てたダケで…って…アレ?」
何かの勧誘だったら断ろうと声のした方に振り向くと、そこには意外な人物が立っていた。
「…なんだ、ニナじゃねーか」
「ふふ、久し振りね二人とも」
彼女は今写真家として巷でかなりの注目を浴びている有名人で。二人とは以前のポップンパーティで知り合った仲である。
「わー、こんなトコロで会うなんて奇遇ダネ!一体どうしたの?」
「あら、それはこっちのセリフだわ。二人揃ってこんな店の前で…もしかして…」
ブライダルショップの前で立ち止まる男女二人…なんてまるで…
「ばーか、誤解すんなっての」
「あはは、私達は次のパーティの会場の下見が終わって偶然ココを通りすがったダケだよ。それで私がついこのドレスに見とれちゃって…」
二人はすぐさまニナが思ったことを否定した。
「あら、そうなの?それは残念だわ」と何故か残念そうにするニナだった。
「何でそんな残念そうなんだよ…」そんな意外すぎるニナの反応を見たMZDが思わず聞き返す。
「ああ、その…ちょっとね…困ったことがあって…」
「困ったコト?」
溜息を吐くニナの前で、二人はなんだろう?と顔を見合わせた。
なんだか結構深刻なことのようだったので、二人は彼女と一緒にすぐ近くの喫茶店に入って話を聞くことにした。

「今、ちょっと人手を探してるのよ」
「人手?」
話によると、ジュディたちが前に立っていたあの店はニナの友人が経営するブライダルショップらしい。
ただ、店の見た目の華やかさとは裏腹に、実は経営がかなりピンチなのだという。
なんせ6月のこの時期にすら予約客も少なく、当初見込んでいた採算が取れないという状況にまで陥っているのだ。
人手もギリギリでもはやかなり厳しいとしかいえず、それを何とかするにはどうしたらいいだろうとニナはその友人から相談を持ちかけられていたのであった。
「それなら、やっぱり改めてPRに力を入れてみるのが一番いいんじゃないかしらって思ったのよ。幸い写真なら専門家を雇わなくても私が撮ればいいし、パンフレットやカタログの印刷も伝手で安くできる所を知っているから…と思ったんだけど…」
「ははぁ成程。それで問題は肝心の被写体…モデルがいねぇってワケだ」
「そうなの。事務所とかに頼んでモデルを雇うとなるとやっぱり費用も気になるし…とにかく安く済ませたいということもあるから、出来るだけ自分たちだけでできる範囲の中でしたくて。それにあんまり日時的にも悠長なことが言ってられないのよね…」
コーヒーを啜りながら肩を落とすニナ。視線を戻して、今一度二人を見る。そして「うん」と頷いて手にしていたカップを置く。
「で…そこで無理を承知で是非とも頼みたいことがあるんだけど…」
「頼み?」
…話の流れから、もうなんとなく二人にも何を頼みたいかは想像がつく。
「ええ。もう予想できると思うけど…お願い!もしこの後時間があるならこのモデルをやってくれないかしら?」
ニナは両手を顔の前で合わせ、さらに頭も下げた。
…やっぱりな、とMZDとジュディは顔を見合わせた。


「…丁度いいじゃねーか。ジュディ、お前やってやれば?あのドレス着るチャンスだぜ?」
流石に本当の結婚式ではないものの、これはあの華やかなドレスを着ることができる絶好の機会ではないか。
ジュディのショーウィンドウに向ける憧れの眼差しを間近に見ていたMZDは、ニナの持ちかけた話を後押しするように彼女に薦めた。
当のジュディはどうしよう…とちょっとの間考え込んだ後、
「うん…イイよ、やっても」と、自分に協力できることがあるなら…とジュディは快く返事をした。
「ありがとう!助かるわ!!」
快い返事が返ってきたことにニナは喜んだ。
「あ、デモ一つだけ条件があるんだケド…」
喜んだ矢先、突然一つ条件があると言われて驚くニナ。
「なんだよ?素直に受けてやればいーじゃねーか」
突然条件をつけるなんて言い出すジュディにMZDも驚いて言った。
「うん」と言いながらMZDに向かいにっこり笑うジュディ。そのまま彼の弛んだ服の袖を掴んで言った。
「神も一緒にやってくれるならヤル」

…え。

「あら。それなら…願ってもないことだわ。じゃぁMZDもヨロシク!」

……え。

突然のことに呆けている間に話を勝手に進める女二人。
ちょっと待てちょっと待て。今なんつった?
空耳か?俺にもやれって言われなかったか?何を?モデルを????

「ま、待て二人とも!何考えてやがるっ」
「ナニって?」
「モデルがやっと見つかって一件落着万歳三唱じゃない」
ニナとジュディが突然何を言い出すのこのヒト?という不思議そうな目でこっちを見た。
「俺はまだやるとは一言も言ってねぇだろ!」
「いや、やってもらわないと困るから。嫌とは言わせないわ」
MZDの抵抗をあっさり払いのけてキッパリと言うニナ。
「ひでぇ!さっきまでの控えめな態度はどうしたっ!!」
あれはあれ、これはこれよ。とニナはコーヒーを飲み干して言った。
折角捕まえたモデルを逃がしてたまるもんですか、と彼女の目が鋭く光る。
いやお前が本気で困ってるのはわからんでもないが…その、モデルっていうのがなぁ…
ジュディはともかく、自分はそういうの正直向いてないというか…
そういう被写体になるようなことは苦手というかマジで気が進まないのだが…

「…ねぇ、ダメ…かなぁ?」
口をあけたまま絶句する自分に追い討ちをかけるが如く、眉をハの字にしてこっちの顔色を伺うように小声で言うジュディ。

あーもうっ!!お前に…そんな風に言われたら………断れんだろーがっ!










更衣室に戻ったMZDは自分の髪を整えながら、そんな昼間の出来事を思い出していた。
しかしなぁ…ジュディの奴突然あんなことを言い出しやがって…
俺はただ便乗して彼女のドレス姿が見れたらよかっただけだというのに。(それがいけなかったのか!?)
正直こんなことになるとは全く思わなかった。

そりゃ、新郎役を引き受ければ彼女のウェディングドレス姿を間近で見ることが出来るわけだし、嬉しくないわけがないさ。
ただの写真撮影のためとはいえ、彼女の隣に立つことが出来ることはある意味願ってもないことなのだが…

ただ、そんな情景想像したことがなかったから、全くピンと来ないばかりか違和感を感じてしまうのだ。


いつか…この先いずれ彼女がウェディングドレスを身に纏うその時には、誰か別の男が彼女の隣に立つのだとずっと思っていたから。
そして自分は、あくまでそれを遠くから眺め、そして密かにそれを祝福するのだと思っていたから…



まぁ…これしきのことで深く考えることもないのかもしれんが…
ただ、意識するなといってもそれは無理な話なのだ。この胸の内に抱く複雑な想い故に。

ふぅ、と一呼吸。
「ま、一度引き受けたからには…きっちり最後までやってやらなきゃなぁ」
なんだかんだ言いつつもやるからには手を抜かないのがMZDの信条。
誰か大事な奴のために何かをしてやりたいというニナの気持ちもわかるし、
綺麗なドレスを着てみたいというジュディの気持ちは理解はしてるつもりだ。
それにどうせ逃げられないんだから、それなりに楽しまなきゃ損ってものだろうさ。…破目を外さない程度にな。
気合を入れなおすように自分の頬を叩く。漸く髪もセットし終えたし、よし、準備は出来た。

MZDは 胸ポケットに入っていたサングラスを更衣室の鏡台の上に置き、そのまま更衣室を後にした。




「神ー。さっきニナがね、撮影の準備が出来たカラすぐ来てだって」
「おう。んじゃさっさと行くとしますかー」
あれ…さっきと違ってちょっとやる気出たのかな…?更衣室から出てきたMZDの様子を見てジュディは思った。
そんな風に彼の背中をぼーっと見ていたら、MZDが早く行くぞ、とこっちを振り返る。
「あ、お前履きなれないヒール履いてんだから転んだりするなよ?ついでにドレスの裾踏んだりしねーように気をつけろ?」
MZDは意地悪っぽく笑いながら言った。
「むーっ、コレくらい大丈夫ダヨ!…ってわわわっ!!」
…と、言った傍からよろけるジュディ。
ぷっ。
MZDはそれを見て思わず噴出す。
…これには流石にジュディも恥ずかしくて顔を上げることが出来なかった。

「ほらよ」 MZDはジュディの傍らに立って彼女の手を取る。そしてゆっくり彼女を立たせてやった。
「無理すんなよ?歩きにくかったらこっちの腕掴んで支えにしとけ」
「あ…うん…そ、そーするネ」
ちょっとドキドキしながら、言葉に甘えてジュディはMZDの腕に自分の腕を絡めた。
なんだかまるで本当の恋人みたいな状況に、二人して心臓がドキドキするのを感じて、顔が熱るのがわかる。
思わず目が合って…お互い照れ笑いでそれを誤魔化した。

でも…折角こういう格好をしているのだから…今日だけは特別ということで、いいよね。

そんな風に心の中で意見の一致をみた二人は、幸せそうに誰もいない静かな廊下を一緒に歩いていった。







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お約束過ぎの話且つ毎度毎度同じパターンでごめんなさいー。
いい加減毎度同じ展開過ぎて飽きてきたですよね…orz
…そんなわけでこれを気に少し前に話を進めようと決意するのでした。

小説ではMZDはグラサン外して髪型ちょっと変えてるみたいですが、
この小説と対になってるTOP絵までそうしたら、いやホント誰だかマジわからなかったので絵はフツーになってます。
そこはまぁ…見て見ぬ振りしてやってください…(ペコリ)

というわけで一周年。
(20050622)



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photo by NOION +++thanks!!