5...CD



会いたくて、ただ忘れて欲しくなくて。

その気持ちだけで、ずっと頑張って。



一番最初に招待されたポップンパーティは、今よりもずっと規模が小さかった。

それでも集まった人たちは皆すごい人ばかりで、すごく驚いたことを覚えてる。

次にまた招待されたパーティでは、新しい人たちが増えて、

それから毎回回を重ねるごとに、どんどんパーティの規模は大きくなっていった。

色々な人の、色々な音が集まって、そこはすごく素敵な空間になっていった。

それはすごく素敵なことだったけど、同時にちょっと怖くもあった。

どんどん新しいものに埋もれて、今までのものが消えてしまうんじゃないかって。

昔のことは忘れられてしまうんじゃないかって。

そう思うとちょっと怖かったけど、それよりも私はそれに負けたくなかった。

だから私は、いつも無理してでも、できるだけパーティのために新しい曲を用意していた。



私のこと忘れて欲しくなくて。ちゃんと私のことがあなたの中に刻まれるように。

だって、もし忘れられてしまったら、あなたに会えなくなる。それが嫌だったから。

そして、密かに抱くささやかな『特別』な気持ちも込めて…






***



それは次のパーティに持っていく曲をどうしようかと考えてたときだった。




「…CD?」

「ああ。ポップンパーティ用にいつも特別に用意してた曲も大分溜まってきただろう? せっかくの機会だから、アルバムにまとめてみないか?」

それはショルキーからの提案。

実は、これまでジュディがパーティ用に用意していた曲はまだ一曲も一般には披露していなかったのだった。

しかし、パーティ用の曲はあの場でどれも高い評価を受けているし、

尚且つ開催される度に用意しているわけだから、今では数もそれなりである。

それを このままにしておくのは勿体無いと思ったのだ。


「うーん、でも…」

ショルキーの予想に反して、ジュディはあまり乗気な反応を見せなかった。

「…え、何か問題でもあったか?」

「あ、ううん。問題があるわけじゃナイヨー…」

「それならいいんだが…。やっぱ一人でも多くの人にいい曲を聴いてもらいたいしなぁ。…いいか?」

「うん…そうダネ…」


別に、今までの曲をCDにするのに問題があるわけではない。

一生懸命作った曲だから、たくさんの人に聞いてもらいたいという気持ちも勿論ある。

けど…。やっぱりあれらは特別な気持ちを込めてつくったものばかりで。

正直心のどこかでは、たくさんの人に届けるよりも、たった一人の人に届けられればそれでいいのに、と思う部分があった。


「…ねぇショルキー?それなら、オネガイがあるんだけど…」










その話が出てから、数ヵ月後。



ジュディはスタジオのビルの屋上で晴れた空を眺めていた。

雲が静かに流れていく空の中に、何かを探すように。

すると、突然その視界に一つの影が現れる。


「ちはーっす。元気かー?」

ジュディの背よりもはるかに高い転落防止用のフェンスの上から聞こえてくる、聞き慣れた挨拶。

「神っ♪」

待っていたといわんばかりに、ジュディは空の散歩から降りてきたMZDの傍に駆け寄った。

「どうしたんだ今日は?いつもの休み時間より早いよな」


このスタジオの屋上はMZDの空の散歩ルート上にあり、彼は殆ど決まった日決まった時間にここに現れる。

それを知って以来、ジュディは休み時間になると他の人には内緒で一人屋上に出てくるようになっていた。



そしてこの日も少しでも早くMZDに会いたくて、 ずっと屋上で彼を待っていたのである。



「うんっ、今日は神に渡したいモノがあるんだっ♪」

そう言ってジュディは持っていたモノをMZDの目の前に差し出す。

「…CD?」

MZDが受け取ったのはアルバムサイズのケースに収められた一枚のCD。

しかしそこにはジャケットも何もなく、曲名が書かれた一枚のメモと一枚のCDが収められているだけ。

「そう!実はソレ出来たばっかりなの。今までポップンパーティで私が披露した曲を一枚にまとめたんだ」

「へぇ…、そーいやぁいつの間にかかなりの数になってたもんなぁ」

「…それで、出来たばっかりのCDをオネガイして譲ってもらったの。だからまだジャケットも歌詞カードも何もナイんだケド…」

それに 既にパーティで披露した曲ばかりだから、毎回パーティで聴いてるMZDにとっては真新しいものは何もない。

けど、収録するにあたっては少し手直ししたものや、改めて録り直したものが多かったから全く同じというわけでもなくて。

だからせめてCDだけでも完成した時点で渡したくて、渋るショルキーに無理を言って焼きあがったばかりのものを譲ってもらったのである。


だって、 どうしても神に一番最初に聴いて欲しかったから。


「よかったら…聴いてネ?」

「おう。嬉しいぜ、なんたってこれでいつでもお前の曲が聴けるんだもんな〜。帰ったら早速聴かせて貰うカラ」

「うん。アリガト!」

ジュディがそういった直後、ポケットの中の携帯が鳴る。

「あ…神、ゴメン!私もう行くね」

「ああ、今日はサンキューな」

MZDに礼を言われて、えへへ。と満面の笑みを浮かべると、ジュディはすぐさま屋上を後にした。






「つーか、時間ねーってのにわざわざ出来たばっかりのCDを渡しに出て来てくれてたのか…」

MZDは貰ったCDケースを空に翳し、そうひとり呟く。

込み上げてくる嬉しさを隠しきれない…そんな表情を浮かべ、太陽の光を受けて光るケースを見つめサングラス越しに目を細める。


ジュディの奴、俺がパーティを開催するたびに、忙しいくせにちゃんと新曲持ってきてくれるんだもんなぁ。

これはその軌跡が詰まったCD。

あいつは…何故だかパーティに持ってきた曲だけは決まってそのときにしか披露せず、一般のコンサートの類では一切発表してこなかったみたいで。

正直何を思ってそうしているのか…ちょっと疑問でもあった。

時間をかけて準備したものなのだから、遠慮せずどんどん発表して行けばいいのに。

「まぁ…俺は今までのあいつの曲は全部知ってるし。他に聴く機会がなくてもしっかり覚えてるから別にいいんだけど…」



パーティも回を重ねるごとに面白い奴が出てきて新しい曲もどんどん出てくるし、どれも皆素晴らしいものだけれど、

あいつが頑張って用意してきた曲はどれも色褪せることなくいつまでも俺の中に残っている。

決して彼女を特別扱いしているわけではない。

けど、それにもかかわらず毎回毎回あいつの曲はしっかりと俺の中に刻まれていく。

それはつまり、それだけの力がそこにあるわけで。

絶対に忘れられない何かがいつも必ずそこにあるのだ。


それを考えると、それらの曲がこうして一般にお披露目されるとなって、ちょっとだけ寂しい気もした。

自分が思 ってたよりも、どこかで『彼女が俺が開くパーティのために用意した曲』っていう特別感は大きかったのかもしれない。



「でも…ま、いっか」

こうして、まだ世界のどこにも出ていないCDが手元にあって、新しく収録され直した曲達を他の誰よりも早く聴く機会があるわけで。

これも、ちょっとした『特別』…だよな?




「よっし、今日は予定変更。早速帰ってコレ聴くとすっかー」
















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お題はCDということで、最初はCDってお題そのままいくの面白くないなぁ…と思って、
こじ付けで全然違う内容で書く予定だったんですが、突然コレが浮かび上がってきたのでこんなんなりました。
…も、もっとあからさまにラブくしたかったのにっ!(汗)
力不足でした。またいつものパターンじゃないですか…OTL
突っ込みどころ満載ですみません…。





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